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2010.04.05

ハーバード 白熱教室|第1講・第2講

面白い番組がはじまった。
NHK教育テレビ日曜午後6時〜7時の『ハーバード 白熱教室 "Justice with Michael Sandel"』というタイトルのハーバード大学政治哲学のマイケル・サンデル教授による講義だ。
第1回放送の昨日は「殺人に正義はあるか」で、
・Lecture1 犠牲になる命を選べるか
・Lecture2 サバイバルのための殺人
というテーマだった。
>>講義詳細(http://www.nhk.or.jp/harvard/lecture/100404.html

   *

「正義とは何か」という哲学の最も根源的な問いといえる問題に文字通り問題形式で問いかける。
先述の講義詳細のリンク先をご覧頂ければそのにも載っているが、こちらにも引用すると、
「あなたは時速100kmのスピードで走っている車を運転しているが、ブレーキが壊れていることに気付きました。前方には5人の人がいて、このまま直進すれば間違いなく5人とも亡くなります。横道にそれれば1人の労働者を巻き添えにするだけですむ。あなたならどうしますか?」
と問いかける。
多くの学生は1人を殺す選択をする。5人を轢き殺すと答えたのは約20%だ。
では次に同じ状況下であるが、あなたは運転手ではなくその道路の上に架かる歩道橋に立つ傍観者であり、たまたま道路真上の歩道橋上にとても太った男が立っていたとしたら?と問いかける。
その太った男を突き落とせば5人の命を救えることが確実であるとわかった場合にどうするかという問いかけだ。
すると多くの学生はその太った男を突き落とすのではなく、5人の死を選択する。

ここからベンサムの功利主義(Utilitarianism)についての議論がはじまる。
ぼくたちが高校の倫理社会の時間に習った「最大多数の最大幸福」(the greatest happiness for the greatest number) というやつだ。

結果的には1人の死を選択する方がいいと思われる功利主義的な考え方(ここでは帰結主義と言っていた)もそのシチュエーションによってはその行動を選択されないということだ。
つまりそこには結果がすべてではなく選択するという行為そのものに評価が移る場合があるということを示しているように思う。
結果がすべてであるという経済効率がすべてである帰結主義的なまなざしに立つ現代に問いを投げかける。

サンデル教授の言葉に印象的なものがあった。
哲学とは新たな知識を得る学問ではない。それはすでに誰でも知っていることについて考えるものだ、というものだった。

第2講には個人的に面白いと思った場面があった。
この講義では実際にあった事件を元に授業を始める。
19世紀の訴訟事件「ヨットのミニョネット号の遭難事件」というもので、海上を遭難し、救命ボートに4人が残っていた。他の3人が生き残るために一番弱っていた給仕の少年を殺害し、その人肉を食べて生存した事件だった。
この事件について「道徳的にどう判断するか」という問いを投げかけた。
ディベートの中で一人の学生が「いかなる理由があろうとも殺人は許されない」と頑に言い放ったことだ。
哲学的に考えるということはおそらくこの「いかなる理由であろうとも殺人は許されない」のはなぜなのかを考えなければならないことなのだと思う。彼はそれを拒否し、とにかく理由はないと言い放つのは思考停止のアレルギー反応に他ならないと思う。
戦争や殺人についてこうしたアレルギー反応を起こす人は少なくない。
だからそこを考えないと、と思うのだが。

NHKサイトでは、ディスカッションガイドとして番組では流れなかった別の「問題」も提示していて面白い。一度ご参照あれ。
>>www.nhk.or.jp/harvard/lecture/guide_100404.html

また来週の講義が楽しみだ。

  *

第1講で教授は5冊のテキストを紹介している。次回までに読んでおくように、ということだ。
 ・Aristotle, Politics
 ・Locke, Second Treatise of Government
 ・Kant, Grounding of the Metaphysics of Morals
 ・Mill, Utilitarianism
 ・Rawls, A Theory of Justice

それぞれ邦訳があるか調べてみると次の通り。
アリストテレス『政治学』
ロック『統治二論』
カント『道徳形而上学原論』
J・S・ミル『功利主義』
ロールズ『正義論』

本当にどうでもいいことなのだが、5人中3人がジョンである。

W-58 政治学 (中公クラシックス)BookW-58 政治学 (中公クラシックス)

著者:アリストテレス
販売元:中央公論新社
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統治二論Book統治二論

著者:ジョン ロック
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

道徳形而上学原論 (岩波文庫)Book道徳形而上学原論 (岩波文庫)

著者:カント
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ミルの『功利主義』そのものは見つからず。洋書と他の作品を紹介

Mill: UtilitarianismBookMill: Utilitarianism


著者:Oskar Piest

販売元:Prentice Hall
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自由論 (岩波文庫)Book自由論 (岩波文庫)

著者:J.S. ミル
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

A Theory of Justice: Original EditionBookA Theory of Justice: Original Edition

著者:John Rawls
販売元:Belknap Press of Harvard University Press
Amazon.co.jpで詳細を確認する

   *

さてさて、先述の「ミニョネット号事件」が実際はどうであったか。
謀殺罪として死刑宣告を受けたが、世論は無罪が妥当との意見が多数であったため、当時の国家元首であったヴィクトリア女王から特赦され禁固6ヶ月に減刑されたようである。(Wikipedia「ミニョネット号事件」参照)
だからといってこれが答えではない。
言うまでもなく、法解釈はあくまで法解釈であり、多数世論の意見が正しいという訳でもない。

   *

Lecture2で取り上げられた「ミニョネット号事件」と比較されるのが「カルネアデスの板」(あるいは「カルネアデスの舟板」)というもの。またまたWikiから引用する。
紀元前2世紀のギリシアで一隻の船が難破した。一人の男が命からがら、一片の板切れにすがりついた。そこにもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れた。しかし、二人がつかまれば板そのものが沈んでしまうと考えた男は、後から来た者を突き飛ばして水死させてしまった。その後救助された男は殺人の罪で裁判にかけられたが、罪に問われなかった。
現代の日本の法律でも、刑法37条の「緊急避難」に該当する為、この男は罪に問われない。
 

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コメント

たしかに この講義は考えさせられます。

5人の命を助けるために 傍観者であったはずの全く安全なはずの一人を犠牲にしてよいのか?
5人の作業員にとっては 起こり得る事故は運命なのですが、傍観者の一人の犠牲者は完全に運転手の意志による殺人です。

「ミニョネット号事件」は実際にあった事件ですが 究極の状況に追い込まれた時 人間は自分を守るために一人を犠牲にしてしまうかもしれません・・・・

投稿: くんた | 2010.05.06 10:29

はじめまして、福田豪太郎と申します。ブロゴスのコメントがすばらしかったため、コメントさせてもらいました。やはり、あのような秀逸なコメントをするには、相当な知性をお持ちなのだろうと推測します。これからも興味深いコメントよろしくお願いします。

投稿: 福田豪太郎 | 2011.07.09 17:23

福田さん、コメントありがとうございます。

ぼくのずぼらで長い間コメント承認をしないまま放置してしまってました。
誠に申し訳ございません。

で、ブロゴスのコメントってなんでしたっけ。
すみません、どうも思い出せないのです。

投稿: pinkopaque | 2011.07.15 16:02

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